現在のフィギュアスケート界を牽引しているのは間違いなく我らが日本の宝、羽生結弦選手です。
しかし現在フィギュアスケート男子シングルの世界王者はネイサン・チェン選手です。彼は、2018年平昌オリンピックで5位を記録した後、すべての試合で負けていません。先日行われた2021年世界選手権でも、2019年の世界選手権でもネイサン・チェン選手は羽生結弦選手に勝利しています。
それでは、羽生選手に勝てるネイサン・チェン選手のすごさとはなんでしょうか?実はネイサン・チェン選手のすごさはジャンプだけではないんです。
ネイサン・チェンはどこがすごい?強さの理由は?
Embed from Getty Images日本人で羽生結弦選手の演技を見たことがある人ならば、フィギュアスケートに詳しくなくても彼の演技の質の高さが分かるかと思います。
そんな羽生結弦選手の一番のライバルがアメリカのネイサン・チェン選手です。
テレビでも驚異の4回転ジャンパーということは良く報じられていますが、実際のところ、4回転の本数をこなすだけでは連戦連勝を続けられません。
というわけでフィギュアスケートに詳しくない人に、ネイサン・チェン選手のすごさを改めてご紹介しようと思います。
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ネイサン・チェンの強さの理由①ジャンプ
ネイサン・チェン選手の一番の強みといえばやはりジャンプです。
ネイサン・チェン選手が跳べる(試合で跳んだ)4回転ジャンプは5種類。日本のトップレベルの選手である羽生結弦選手と宇野昌磨選手が跳べるジャンプと比較してみましょう。
ネイサン・チェン | 羽生結弦 | 宇野昌磨 | |
4回転アクセル | |||
4回転ルッツ | ◯ | ◯ | |
4回転フリップ | ◯ | ◯ | |
4回転ループ | ◯ | ◯ | ◯ |
4回転サルコウ | ◯ | ◯ | ◯ |
4回転トウループ | ◯ | ◯ | ◯ |
ジャンプの難易度は上から下がっていきます。
4回転アクセルは3選手含むすべての選手が成功していません。
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ネイサン・チェン選手はアクセル以外すべてのジャンプを試合で成功させています。ループについてはしばらくお休みしていますが(来季から本格投入の噂も)、少なくとも4種類のジャンプはコンスタントに構成に組み込んでいます。そして成功率もかなり高いです。
羽生選手も宇野選手も4種類の4回転を持っていることがすでに素晴らしいのですが、羽生選手は4Lzを、宇野選手は4Loや4Sをコンスタントに試合に組み込めてはいません(来季オリンピックシーズンには両者とも最高難度の構成を目指すかもしれません)。
ちなみに、現在のフィギュアスケートルールではフリースケートプログラムの4回転ジャンプは1種類につき1回しかリピートできず、そのうちの1本をコンビネーション(連続)ジャンプにしなければいけないというルールがあるため、ジャンプで高い点数を稼ぐためには高難度の4回転ジャンプを多種類跳べたほうが有利ということになります。
たとえば、ネイサン・チェン選手は4回転ルッツに3回転トウループを付けて跳べるので、仮にこのジャンプに失敗しても、もう一度4回転ルッツを組み込むことができるので大きな挽回が可能です。
ネイサン・チェンのジャンプと羽生結弦のジャンプの違いは?
羽生結弦選手とネイサン・チェン選手を比較するときに、よくジャンプの質が話題になります。
これはおそらくフィギュアスケートが好きな人ならほぼすべての人が認めていることと思いますが、羽生結弦選手のジャンプのクオリティは世界一です。
高さと幅のバランスが絶妙で、流れ、出入りの工夫、空中姿勢全てにおいてパーフェクト。「教科書のようだ」と例えられることもありますが、羽生選手がバチッと決めたジャンプは教科書以上の質といっても過言ではないでしょう。
一方で、ネイサン・チェン選手のジャンプは高さと回転スピードが特徴的です。上に高く跳ぶため、下に向かって角度なく降りてくるような形になり、着氷が詰まってしまうこともありますし、羽生選手ほど出入りの動きが緻密ではないので、出来栄え評価は羽生選手のジャンプには劣ります。
しかし、うまく流れに乗ったジャンプには圧倒的な迫力があり、羽生選手と匹敵するくらいの出来栄え評価を得られます。またジャンプが高いとたとえ出来が悪くても致命的なミスをしづらいという利点もあります。
ネイサン・チェンの強さの理由②スピン
ネイサン・チェン選手が強い理由はジャンプだけではありません。
2つ目の理由がスピンです。
ネイサン・チェン選手は幼少期にバレエをやっていたので、スピンの姿勢も指先足先まで美しいですし体幹も強く軸もブレません。
羽生結弦選手のスピンのように一つ一つのスピンに表情が見えるというレベルには到達していませんが、羽生選手とはまた違った上品さと迫力を兼ね備えた美しいスピンです。
ネイサン・チェンの強さの理由③スケーティング技術
ネイサン・チェン選手はスケーティング技術もトップレベルです。ステップシークエンスのエッジ使いが細かく正確なのはもちろん、上半身は情熱的に動いているのに、足元は冷静かつ丁寧でまさに職人という言葉が似合うスケーティングです。
エッジがどうとかよくわからない!という人は、ステップシークエンスでのスケートの刃の傾きの深さや、”いま氷をグッと漕いだ”というのが分からない力みのない足さばきを見てみてください。
ネイサン・チェンの強さの理由④伸び続けている表現力
ネイサン・チェン選手といえば、シニアに上がりたての頃はジャンプを中心とした技術のみで勝負している選手というイメージでした。しかし、2017-18シーズンのネメシスを境に表現力の面でも覚醒しました。
ネイサン・チェン選手はもともとダンスが得意な選手なのでリズム感も抜群です。caravan(上のステップの動画)のようなおしゃれなジャズから、ヒップホップまで、情熱的な音楽を起用に滑りこなせます。こういった現代的な音楽は羽生選手の盟友でもあるハビエル・フェルナンデスさんが得意としていましたが、ネイサン・チェン選手もハビエルさんのようにエモーショナルで小洒落た表現ができる選手に成長していくのではないでしょうか。
ちなみに少々ダンス経験のある筆者は、フィギュアスケートでもダンス的な身体の使い方が上手い選手はついつい注目してしまうのですが、ネイサン・チェン選手はまさにその一人です。
下はHIP HOP調のダンスで観客を煽るネイサン・チェン選手↓
ダンスより衣装に釘付けになりそうですが…
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こういうビートに身を委ねるような身体表現は日本人にはなかなか難しいところかと思います。この点はアメリカ文化で育ったアドバンテージといえるでしょう。
ネイサン・チェンは表現力で羽生結弦に勝てない?
ちなみにネイサン・チェン選手は羽生結弦選手と比較して表現力に劣るという意見もあります。
たしかに現時点で、それは事実でしょう。音ハメやつなぎの濃さなどは目に見えて羽生選手が優れています(というか羽生選手はこの点において別次元)。
しかし完璧な音楽との調和と繊細さが強みの羽生選手と、大胆さとダンスが強みのネイサン選手では表現のアプローチ方法が違うので、ネイサン選手も今後経験を積んでいけば更に表現力の面で個性を発揮できるのではないでしょうか?
ネイサン・チェン選手は全てに優れた、羽生結弦の唯一のライバル
Embed from Getty Images以上、ネイサン・チェン選手の強さの理由を紹介しましたが、ネイサン・チェン選手はジャンプだけでなくフィギュアスケートという競技に必要なすべての技術においてハイレベルにあるオールラウンダーの選手であることが分かっていただけたかと思います。
ちなみにオールラウンダーといえば羽生結弦選手も同じです。羽生結弦選手の場合はジャンプで稼げる技術点がネイサン・チェン選手に劣るものの、その点以外全てにおいてネイサン・チェン選手よりも更に上のレベルにいるかと思います。
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ですが、例えば羽生選手が今のプログラム構成で史上最高の完璧なクオリティで演技したとしても、ネイサン・チェン選手が今の構成で自分史上最高のクオリティの演技をすればおそらく技術面で優位なネイサン選手が勝つのではないでしょうか。
とはいえ競技にはミスがつきものです。先日の世界選手権のときのようにどちらかにミスがあると点差が大きく開くので、一つの試合だけで正確に実力の優劣を付けることは出来ないでしょう。
この二人は現在、些細なミスで順位が逆転するほど拮抗したレベルにいます。ノーミスレベルをしたときはネイサン・チェン選手が有利ですが、羽生選手が勝てないかと言うとそうは思いません。例えば羽生選手がルッツを入れるなど、構成を上げてきたら、基礎点でネイサン・チェン選手が勝っていても羽生選手が優勢になるのではないでしょうか?
来シーズンはついに北京オリンピックイヤー(予定)です。
ネイサン・チェン選手も羽生結弦選手も最高のレベルを用意して勝負に挑むはず。次のオリンピックは正真正銘、史上最高の戦いになるでしょう。