2022年2月24日、ロシアがウクライナへの侵攻を開始しました。西側各国はロシアに対して経済制裁で対抗していますが、2月25日時点では限定的な制裁に留められているため、現時点ではロシアにとって侵攻を諦める理由にはなっていないようです。
そんななかウクライナは自国の軍事力のみで孤軍奮闘しています。首都キエフ制圧も迫るなか、ウクライナの各都市では刻々と犠牲者が増え予断を許さない状態です。
ところで、ロシアの最大の敵国といえば、アメリカ合衆国です。世界最大の軍事力を誇るアメリカが立ち上がれば、ウクライナが救われるのでは?と考える人もいるのではないでしょうか?ですがアメリカは、今のところ軍事支援に乗り出すつもりはないようです。
ではなぜ、アメリカはウクライナとともにロシアと戦わないのでしょうか?簡単にわかりやすくご説明します。
アメリカ軍がウクライナへ派遣されない理由とは?
BBCニュース - バイデン氏、プーチン氏は自ら「選んだ戦争」の報いを受ける 追加制裁発表https://t.co/gcTH0oCbiA pic.twitter.com/PFEolT7Rfa
— BBC News Japan (@bbcnewsjapan) February 25, 2022
①アメリカとウクライナは同盟関係ではない
アメリカとウクライナの間に軍事同盟は結ばれていません。
2国間に軍事同盟があれば、ウクライナにアメリカ軍を派遣したり、軍事施設を共有したりということが可能になるのですが、そのような取り決めがないので、軍事支援には神経を使わなければなりません(ただし、ウクライナに対して武器の援助は行っています)。
またウクライナがNATO(欧米30カ国間の軍事同盟)に加盟していれば、欧米加盟国各国の軍の派遣もあり得るのですが、そもそも今回のロシアの武力行使の理由は「ウクライナがNATOに加盟したがっているから」だったので、NATO未加盟のウクライナにアメリカやNATO加盟国が軍を派遣しなければならないという理由もありません。
1994年にアメリカはウクライナの安全保障を約束してなかったっけ?
しかし、ウクライナの国民の多くはアメリカの軍事支援を期待していました。
なぜなら、『ブタペスト覚書』によってアメリカがウクライナを味方してくれると思っていたからです。
ブタペスト覚書とは、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの3国が核兵器を放棄する(ロシアに渡す)代わりにアメリカ、イギリス、ロシアが3国の安全を保証するという内容の、1994年に署名された政治的協定書です。
それ以前のウクライナは世界第3位の核保有国でしたが、ブタペスト覚書によって丸腰となったのです。
以下、ブタペスト覚書の内容です↓
ブタペスト覚書の詳細 ①ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナ(以下「3国」とする)の独立と今の国境を尊重する ②3国に対する脅しや武力行使をしない ③3国の政治に影響を与える目的の経済圧力をかけない ④もし3国が侵略の犠牲となる場合や3国に核兵器が使用される場合はすぐに支援できるように国連安保理に働きかける ⑤3国に対して核兵器の使用を控える ⑥これらの誓約に疑義が生じれば互いに協議する |
このようにブタペスト覚書は、有事の際にアメリカらがウクライナを支援するという内容になっています。
ですが、ブタペスト覚書はあくまで政治的な約束事であって、守らなければ法的な罰則があるというものでもありません。
2014年のロシアによるウクライナ、クリミア地域併合の際にもアメリカは軍事支援を行いませんでした。
そもそも覚書に署名した当事者であるロシアがウクライナに攻め込んでいるわけですから、ブタペスト覚書は効力として非常に弱いものになっていると考えられます。
②アメリカはウクライナ問題よりも中国に専念したいのが本音
アメリカは軍事介入したくてもできないというよりも、できれば軍事介入したくないというのが本音のようです。
現在のアメリカが最も敵視しているのは、アメリカに次ぐ経済大国の中国です。
プーチンのロシアも厄介な存在であるのは事実ですが、経済力のある中国に覇権を握られる方がアメリカにとっては大きな大きな痛手なのです。
もし現在アメリカがウクライナ問題に深く介入してしまうと、対中国の軍備が手薄になってしまいます。このタイミングを中国が「チャンス!」と捉えれば、台湾などに侵攻してくる可能性も否定できません。
アメリカとしては、このような事態をどうしても避けたい。だからこそウクライナ問題はできる限りヨーロッパで解決して欲しいというのがアメリカの本音なのです。
③アメリカ国民もウクライナへの積極的軍事関与を望んでいない
アメリカ国内でも、ウクライナへの積極的な軍事支援には反対の声が多いようです。
「米国民の多くは米国の主要な役割に反対」。AP通信は23日、こう題した記事を配信し、ウクライナ情勢で「米国が主要な役割を果たすべきだ」という回答が26%にとどまったという自社の世論調査結果を報じた。一方、「小さな役割を果たすべき」は52%、「役割を果たすべきではない」との回答は20%だった。
https://www.asahi.com/articles/ASQ2S527NQ2SUHBI005.html
「米国が主要な役割を果たすべきだ」については軍の派遣や大規模な経済制裁といった積極的な関与を、「小さな役割を果たすべき」は他国と足並みを揃えた経済制裁等の一般的な関与を表すようですが、この調査からは国民の7割以上が積極的な関与を望んでいないことが伺えます。
もしアメリカがウクライナへ軍事支援を行えばロシア激怒で核戦争の危機?!
それでももしアメリカがウクライナに軍事支援を行うとすればどうなるのでしょうか?
まず、ロシアの言い分としては、「ウクライナ国内で虐待などのひどい目に遭っている新ロシア派を救うために進軍せざるを得なかった」ということなので、プーチン大統領には侵略や侵攻を行っている意識はありません(建前としては)。
そんななか、アメリカが「ロシア許さん!」とウクライナの援軍を行えば、ロシアは「”正義”のための戦いなのに、無関係なアメリカが邪魔するな!」と激怒します。
となると待っているのは、西のボス・アメリカと、東のボス・ロシアの直接対決です。
ですがロシアはアメリカや西欧諸国に対して「もし攻撃するなら、こっちは何でもやっちゃうぜ」と牽制しています。
そう、”何でも”とは核兵器の使用です。
もしアメリカが参入することによって核兵器が使われたら、ウクライナに甚大な被害を及ぼすだけでなく、世界中を巻き込んだ第3次世界大戦に発展する可能性もあります。
嘘のような話ですが、これまでも悪い方向に常識を破り続けているプーチン大統領ですから、常識の枠内で彼を理解するのは容易ではないかもしれません。
それにしても、ウクライナ侵攻に対するアメリカの対応を、今ごろ中国はどのように見つめているのでしょうか。