アメリカにおける人種差別は根深い社会問題です。
先日も黒人のジョージ・フロイドさんが白人警察官に執拗に首を押さえつけられて死亡する事件が発生し、それをきっかけに今全米で抗議デモが起きています。
日本で生まれ育った日本人からすると、黒人への人種差別という問題は理解しようと思ってもできない部分が多くあると思います。
たとえば
そもそもなぜ黒人が差別されるの?
肌に色が付いていたら何がいけないの?
白人はどんなふうに特別なの?
黒人はなぜ暴徒化するの?
ニュースを見ているとアメリカが今大変であることは理解できるけど、そもそも根本的な背景や当事者の思いが見えてこずにモヤモヤしている方も多いのではないでしょうか?
そんな方へ向けて、アメリカの人種差別への理解が深まるオススメ映画をご紹介します。
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黒人への人種差別を描いたおすすめ映画
人種差別がテーマとなっている映画の中でもオススメの映画を8本と、それぞれのおすすめポイントをご紹介します。
私はあなたのニグロではない
黒人公民権運動の活動家で、いずれも暗殺されたメドガー・エバース、マルコムX、マーティン・ルーサー・キングの3人の軌跡を通して、アフリカ系アメリカ人の激動の現代史を描き出したドキュメンタリー。アメリカの作家で公民権運動家であるジェームズ・ボールドウィンの未完の原稿をもとに、ボールドウィンのテレビでの発言や講義などの映像、映画や音楽の記録映像を交えながら、公民権を得てもなお差別の本質が変わっていない現実を浮き彫りにする。
https://eiga.com/movie/87390/
2017年公開
原題:I Am Not Your Negro
監督:ラウル・ペック
ナレーション:サミュエル・L・ジャクソン
受賞歴:第89回アカデミー賞(2017)長編ドキュメンタリー賞ノミネート
<おすすめポイント>
1960年代の公民権運動を記録したドキュメント映画。当時から現代に至るまでの黒人への偏見の歴史を知るには最適の映画です。
ドキュメンタリーとはいえ、記録を切り貼りするだけの映画ではなく、原作者のジェイムズ・ボールドウィンの言葉によって物語が紡がれていくため、人々の心情まで深く描かれています。
黒人の人種差別映画を観るならまずはじめに見ていただきたい作品です。
グローリー/明日への行進
アメリカ公民権運動が盛り上がりを見せる中、アラバマ州セルマで起きた血の日曜日事件を題材に描く感動作。ノーベル平和賞を受賞したマーティン・ルーサー・キング・Jr.のリーダーシップでデモに集まった人々が警官の投入によって鎮圧されたのをきっかけに、世論が大きく動いていくさまを描く。俳優のブラッド・ピットや人気トーク番組で有名なオプラ・ウィンフリーらが製作を担当。史実を基に描かれる、激動の近代史に心動かされる。
https://www.cinematoday.jp/movie/T0016364
2014年公開
原題:SELMA
監督:エヴァ・デュヴァネイ
出演:デヴィッド・オイェロウォ他
受賞歴:第87回アカデミー賞(2015)主題歌賞受賞/作品賞ノミネート、
第72回ゴールデングローブ賞(2015)最優秀主題歌賞受賞/最優秀作品賞(ドラマ)・最優秀主演男優賞(ドラマ)・最優秀監督賞ノミネート
<おすすめポイント>
この作品の良いところはキング牧師の生涯を描く伝記的な物語ではなく、血の日曜日事件にスポットを当てた物語であるということです。彼の人権運動全体を捉えられる内容ではありませんが、一つの場面を切り取ることでキングの人格や彼を取り巻く人々の視点が細かく描かれています。彼はなぜ力に対して非暴力で立ち向かったのか?キング牧師と言えば「I HAVE A DREAM」という言葉が有名ですが、著作権の関係でこのフレーズは出てきません。このフレーズしか知らないという人にぜひ見て欲しい作品です。
ビール・ストリートの恋人たち
「ムーンライト」でアカデミー作品賞を受賞したバリー・ジェンキンス監督が、1970年代ニューヨークのハーレムに生きる若い2人の愛と信念を描いたドラマ。ドキュメンタリー映画「私はあなたのニグロではない」の原作でも知られる米黒人文学を代表する作家ジェームズ・ボールドウィンの小説「ビール・ストリートに口あらば」を映画化し、妊娠中の黒人女性が、身に覚えのない罪で逮捕された婚約者の無実を晴らそうと奔走する姿を描いた。
https://eiga.com/movie/90069/
2019年公開
原題:If Beale Street Could Talk
監督:バリー・ジェンキンス
出演:キキ・レイン、ステファン・ジェームス、レジーナ・キング他
受賞歴:第91回アカデミー賞(2019)助演女優賞受賞/脚色賞・作曲賞ノミネート
第76回ゴールデングローブ賞(2019)最優秀助演女優賞受賞/最優秀作品賞(ドラマ)・最優秀脚本賞ノミネート
<おすすめポイント>
この物語には黒人差別だけではなく、貧富の差や女性差別などいろいろな差別が絡んできて非常に腹立たしいです。その一方で主人公二人の愛は崇高で、映像や音楽は非常に美しくオシャレです。だからこそいっそうやるせなさを感じるのですが…。この物語は70年代の昔話ではなく、今なお続いているアメリカの”リアル”でもあります。「差別反対!」と叫んだって状況は変わらない。では何をすれば救われる?不条理な世の中で生きるというというのはどういうことかを考えさせられる作品です。
ヘイト・ユー・ギブ
警官が無抵抗の黒人青年を射殺した、実際の事件に着想を得た小説が原作のドラマ。黒人で16歳のスター(アマンドラ・ステンバーグ)は、幼いころから白人と共存して生きるように教えられてきた。彼女は白人たちが通う学校の生徒となり、白人のボーイフレンドと青春を謳歌(おうか)していたある日、幼なじみが白人警官に撃ち殺されるのを目撃する。最初は白人との共存を考慮し黙っていたが、やがて社会の矛盾に立ち向かうことを決意する。
https://www.cinematoday.jp/movie/T0023999
2018年公開
原題:The Hate U Give
監督:ジョージ・ティルマン・Jr.
出演:アマンドラ・ステンバーグ他
受賞歴:第91回アカデミー賞(2019)助演女優賞受賞/脚色賞・作曲賞ノミネート
第76回ゴールデングローブ賞(2019)最優秀助演女優賞受賞/最優秀作品賞(ドラマ)・最優秀脚本賞ノミネート
<おすすめポイント>
フィクション作品ですがアメリカ社会のリアルな姿と重なります。白人コミュニティーに同化することで自分を守っているスターのような人々はアメリカ社会にたくさんいるのではないでしょうか。そんな彼女が射殺された黒人の友人ために立ち上がるまでの葛藤を見ていると、現在もアメリカ国内で起きている抗議デモに参加している人一人ひとりにドラマがあることを思い知らされます。現状を変えるために声を上げた”普通”の人々の心情が描かれた映画です。と同時に白人警官がなぜすぐ発砲するのかについても考えさせられます。
ゲット・アウト
パラノーマル・アクティビティ』シリーズなどを手掛けてきたプロデューサー、ジェイソン・ブラムが製作に名を連ねたスリラー。ニューヨークで写真家として活動している黒人のクリス(ダニエル・カルーヤ)は、週末に恋人の白人女性ローズ(アリソン・ウィリアムズ)の実家に招かれる。歓待を受けるが、黒人の使用人がいることに違和感を覚え、さらに庭を走り去る管理人や窓に映った自分を凝視する家政婦に驚かされる。翌日、パーティーに出席した彼は白人ばかりの中で一人の黒人を見つける。古風な格好をした彼を撮影すると、相手は鼻血を出しながら、すさまじい勢いでクリスに詰め寄り……。
https://www.cinematoday.jp/movie/T0022228
2017年公開
原題:Get Out
監督:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ他
受賞歴:第90回アカデミー賞(2018)脚本賞受賞/作品賞・監督賞・主演男優賞ノミネート
第75回ゴールデングローブ賞(2018)最優秀作品賞(コメディ/ミュージカル)・最優秀主演男優賞(コメディ/ミュージカル)ノミネート
<おすすめポイント>
人種差別をスリラーという斬新な切り口で描いたところがポイント。心霊ものではなく、心理的恐怖を与える作品です。ストーリーはかなりぶっ飛んでいるのであくまで”娯楽映画”として楽しんでください。この作品では主人公が明らさまな人種差別を受けることはありません。しかし、現実世界においても非差別主義の白人(だけに限らないけど)に埋め込まれた人種区別の思想が、たとえ悪意はなくとも差別を生み出す可能性があるかもしれないという気づきを与えてくれます。
ラビング 愛という名前のふたり
人気俳優コリン・ファースのプロデュースのもと、「MUD マッド」「テイク・シェルター」のジェフ・ニコルズが監督・脚本。58年、バージニア州。大工のリチャード・ラビングは、愛する恋人ミルドレッドから妊娠を告げられ結婚を申し込む。当時、バージニア州では異人種間の結婚は法律で禁止されていたが、子どもの頃から深い絆で結ばれてきた2人にとって、別れるなど考えられなかった。そこで2人は法律で許されるワシントンD.C.で結婚した後、地元で暮らしはじめる。しかしある晩、自宅に押しかけてきた保安官に逮捕され、離婚か故郷を捨てるかの選択を迫られてしまう。
https://eiga.com/movie/86135/
2017年公開
原題:Loving
監督:ジェフ・ニコルズ
出演:ジョエル・エドガートン、ルース・ネッガ他
受賞歴:第89回アカデミー賞(2017)主演女優賞ノミネート
第74回ゴールデングローブ賞(2017)最優秀主演男優賞(ドラマ)・最優秀主演女優賞(ドラマ)ノミネート
第69回カンヌ映画祭(2016)コンペティション部門出品
<おすすめポイント>
実際に起きた”ラビング裁判”という異人種間の結婚をめぐる裁判を元にしたお話です。当時は、今以上に人種差別は当たり前に存在していました。主人公夫婦はそんな世の中に抗うことなく、現状を受け入れて、静かに慎ましく、しかし二人の揺るぎない愛と絆だけを信じ、出来ることを積み重ねていきます。そしてそれが社会を動かす力となります。私たちはニュースなどの影響で差別と戦う=抗議デモを行う、という印象を抱きがちですが、差別への戦い方は一つではないことを教えてくれる映画です。
それでも夜は明ける
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。
https://eiga.com/movie/79401/review/
2014年公開
原題:12 Years a Slave
監督:スティーブ・マックイーン
出演:キウェテル・イジョフォー他
受賞歴:第86回アカデミー賞(2014)作品賞・助演女優賞・脚色賞受賞/監督賞・主演男優賞・助演男優賞・編集賞・衣装デザイン賞・美術賞ノミネート
第71回ゴールデングローブ賞(2014)最優秀作品賞受賞/最優秀主演男優賞(ドラマ)・最優秀助演男優賞・最優秀助演女優賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞・最優秀作曲賞ノミネート
<おすすめポイント>
主人公が奴隷になる前と後の落差が大きすぎて終始ズシーンとくる映画ですが、実話を元にした話なので、奴隷時代というアメリカの黒歴史をまざまざと感じることができます。主人公が救われたからと言って物語はハッピーエンドにはなりません。アメリカで奴隷制度が公式に廃止されてから150年以上経ちますが、当時と現代で黒人に対する差別意識はどのように変化したのか?それとも何も変わらないのか?そういったことを考えながら観ると良いかもしれません。
ブラインドスポッティング
オークランドで生まれ育った親友同士の2人の青年の姿を通し、人種の違う者や貧富の差がある者が混在することによって起こる問題を描いたドラマ。保護観察期間の残り3日間を無事に乗り切らなければならない黒人青年コリンと、幼なじみで問題児の白人青年マイルズ。ある日、コリンは黒人男性が白人警官に追われ、背後から撃たれる場面を目撃する。この事件をきっかけに、コリンとマイルズは互いのアイデンティティや急激に高級化していく地元の変化といった現実を突きつけられる。あと3日を切り抜ければ晴れて自由の身となるコリンだったが、マイルズの予期せぬ行動がそのチャンスを脅かし、2人の間にあった見えない壁が浮き彫りになっていく。
https://eiga.com/movie/91333/
2019年公開
原題:Blindspotting
監督:カルロス・ロペス・エストラーダ
出演:ダビード・ディグス、ラファエル・カザル他
<おすすめポイント>
人種差別をテーマにした映画は総じて重たくなりがちですが、この作品はヒップホップの音楽や、ラップに乗せたセリフの効果でライトに鑑賞できます。タイトルの「ブラインドスポッティング」=”盲目”という意味です。この作品は視点や考え方が違えば全く同じものが別物に見えるというのがテーマになっており、黒人が受ける差別だけでなく、黒人コミュニティーの中にいる白人が受ける差別も描かれているのが特徴です。また物語には人種問題だけでなく、銃社会、貧困など現在のアメリカが抱える社会問題が絡んでおり、今のアメリカ社会への理解を深めるのにオススメの映画です。
以上おすすめ映画8本でした。
日本在住の日本人からするとアメリカに根付く人種差別問題は理解しようと思ってもなかなか全てを理解することは難しいでしょう。
ですが今も地球上に、黒人だけでなく、私たちと同じアジア人が他人種から差別を受ける国があるのは事実です。あなたもその地を訪れれば同じような扱いを受ける可能性だってあります。
また肌の色が理由ではない差別やいじめが世界にも、日本にも存在するのも事実です。
人種差別映画はアメリカの社会について学ぶためにも有効ですが、学んだことを自分の身の回りの人々との関わりに生かしていくことも大切ではないでしょうか。